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とおい、とおい。過去の約束を思い出す。


 ――刀になれん言うなら鞘になれば良か。
 片時も離れることは許さん。
 お前は、ワシの鞘やけんな…。


 …旦那さん。
 約束を、違えてしまうことを、お許しください。







+ + + + +





「酷いものだわ」
 女は男を見下ろし、そう吐き捨てた。
 花を探して異邦の地へ来て、さて何処で暮らそうと思案していたのに。
 停めていた移動用の小型船に突如出現した異邦人の乗り物と衝突事故なんて笑えない。――住宅街から外れたところで良かったものだ。人目につくと面倒くさい。
 しかも乗っていた男は気を失っており、今にも死んでしまいそうである。…女が弁解するわけではないが、男は衝突が原因だけではない傷を負っていた。よく見てみれば裂傷や弾痕が目立ち、右目も潰れている。よくも今まで生きていたものだ。
「この地にはこんなのしかいないのかしら」
 触るのも汚らわしい、と女は腕から生えた茨を使い男を引きずり出した。黒髪に精悍な体つき。生きているのが可笑しいくらいに、体中は赤黒い血で汚れている。
「あら?」
 抱き起こしてみれば、その背。破れた衣服の下、血ではない緋色が女の目に留まる。
「ふふ」
 び、と男が着ているシャツを破る。旧い傷痕をいくつも持つくせに、そこは護っていたのか――男の背には、緋色の牡丹が咲いていた。
 刺青など女には解らない。だが、探していた花を背に持つ男。それだけで。
「……アナタの背花。散らすには惜しいわ」
 たったそれだけで、女は男を見殺しにするのを止めた。


 煩わしい周囲を宥め、落ち着かせてから、女は本格的に男の治療へ取り掛かる。
 船は地中に。地上にはダミーの建築物と、船から移した"花園"を隣接させた。治療に用いるのはこちら、"花園"エリアが要である。半透明のベッドに男を寝かせ、膝を枕代わりにし、自身の茨で包み込んで。
「痛むでしょうね。耐えなさい」
 ドーム状の"花園"に、この地に咲く花々がいっせいに花開いていく。女の茨にもひとつ、ふたつと、薔薇の蕾が生まれてゆく。
「ほら。花たちに応えてみせなさい、アナタも花なのだから」
 ぼんやりと男が目を開く。潰れた右目が痛々しい。
「せっかくだから右目も治す?」
「……要らん」
 掠れた声だ。搾り出すように、男は告げる。
「右目は、…あの人に、……捧、げ」
「悪趣味ねえ女々しいわ」
 ころころと女は笑う。
「不恰好だから代わりは埋めるけれど。そう、要らないのね」
 男は黙った。気を失ったのだろう、これだけの傷でよく喋れたものだと感心する。
「気高い花は好きよ」
 聞こえぬだろう男にそっと囁き。
 女と男を繋ぎ、絡める茨。そのあちこちについた蕾がほころび、蒼い薔薇を咲かせた。


「………」
 お世話んなりました。
 引き裂いてくれて有難うございます。
 ――おかげで俺はあの人の懐刀に成れたんやから。
「……旦那さん」
 ぼんやりと開く意識。見えぬ右目。
 恩あるひとを裏切った者を始末するために、あの人と決別した、なによりの証。
「俺は…」
 裏切り者を始末して、追われて逃げて。ろくに手当てもせずひたすら車を走らせて――…自分は、死んだと思ったのだが。

 ――アナタの背花、散らすのは惜しいわ。

 女の声を覚えている。
 誰だろうか。あれだけの傷を、どうやって治したというのだろうか。
「……あ」
 痛む体を起こすと、何も着ていない。微妙な心細さを覚えるより早く、肩から零れた一房の髪に意識が向いた。
「赤、い」
「目が覚めたかしら」
 女。…否、少女の声が――
「…なし、そげん服がぶかぶかなん」
「全裸に言われたくないわね」
 しまいなさい、と少女がシーツを投げてよこす。有難いので下半身を隠させてもらうが。
「さて。緋牡丹、アナタ、体の調子はどう? ちゃんと右目は見えてないでしょう?」
「緋牡丹?」
 言われて気づく。背の刺青のことだろう。
「体は、まだあちこち痛むけど。…右は、見えんままや」
「見えるようにするなと言われたのだもの。よしよし、私はちゃんとできたようね」
「待ってくれ。…髪は、なして」
「花の力を借りたからよ」
 …どげんしよか。会話が通じるけどよぉ解らん。
「アナタの命は散りかけていて種を結ぶこともできなかったわ。仕方ないから、枯れたアナタ自身を活性化させたのよ。他所から色々借りたから、まあ、髪色くらいは変わるわね」
「はあ」
 解らないが頷いておく。ところで、
「あんたもうちょいこう…大人やなかったか」
 尋ねると、少女はふふんと胸を張る。
「ええ、満開とまではいかないまでもそれなりに咲いていたわね。八分咲きってやつ? だけれどアナタを癒すには私とアナタの魂を繋げなければいけなかったから――…理解しろとまで言わないから聞きなさい。結果、アナタは助かって私は蕾になったの」
 くすくすと楽しそうに少女は笑っている。
「またこれから咲く楽しみが増えたわ。そこは有難うと言っておくわね」
 だけど困ったわと続けるが、あまり困った様子は見えない。
「私、ハナヤをやるつもりだったのだけれど、こんな蕾じゃ相手にされないわ」
 そやなあ。男はつられて頷く。
「だけどアナタがいるから助かりそうよ!」
 一気に少女のテンションが上がったがハナヤ…花屋の経験が無い自分に何をしろと言うのか。
「大丈夫よ私もよく解らないから」
「解らんで店はできんよ、お嬢。東京はそげん甘くなか、」
「此処は西京よ」
 は?
 男は間の抜けた声を出す。西、京?
「そう、西京。人も幽霊も魑魅魍魎も隔てなく暮らす魔都」
 くすくすと――少女は愛らしい顔立ちで、妖しい微笑を浮かべている。
「アナタはトウキョウから来たのね。聞いた話だと、トウキョウからの迷い人は帰る手立ては無いそうよ」
 最悪、研究所に捕まってしまうのですって。怖いわね。
 だから。
「…アナタは私と居るしかないわね」
 そうか。
 男は黙って聞いていたが、心の奥にぽっかりと穴が空いたような空虚を得た。
 帰る場所へは自分から離れたようなものだが、帰れないと言われては改めて辛い。
 容易く信じられる話ではない。だが、覚えている限りの逃亡劇と自身の怪我と緋色の髪を見てしまえば、この状況は夢ではないのだ、と思うほか無く。
「…やったらお互い、名前から知っとかんといけんね」
「緋牡丹、でいいじゃない」
 さすがに花の名を得るわけには。だから、
「俺は三峯泰央」
「長いわ。ミツでどう?」
「さすがに苗字で略されんのはちょっと。…せめてヤスヒロのヤスで」
「仕方ないわねえ」
 少女はぶかぶかの服をよいしょ、とたくし上げた。
「私はラージュエルバ。ラージュとでも呼んで」
「解った、ラージュ」
「だけどお嬢という響きも悪くないわね」
 そういうものだろうか。
 まあ自分も鞘だと言われ喜んでいたので反論できない。
「よろしくね、ヤス」
 花のような少女は綻ぶような笑顔を見せた。満開になればどのような花になるのだろう。
 その"命"を奪ってしまったことに、少しの罪悪感を覚えながら。泰央はラージュと握手を交わした。


「…ところでお嬢。店の名前はなんて言うん」
「"花咲里"と書いて"かざり"と読むのよ」
 かざり、か。
「…配達とかしてくれる従業員が欲しいとこやな」
「まあ、アナタ一人じゃ総ての仕事をこなすのは無理そうだものねえ…」
 ゆっくり考えていきましょう、とラージュは笑う。
 そうやな、と泰央も応じた。

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