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◆お借りしています◆ロゼ・ロクスさん◆
◆みみみさんの『雨とともに(1)』をうけて、功至視点。◆
◆◆BLCP前提ですのでBL苦手の方は閲覧ご遠慮くださいませ◆◆


  *  *  *  *  *


 ――ある雨の日、奇妙なひとと出会った。
 たまたまそのひとは不調で、その不調を直す事ができるのは自分で、色々あって家に招くことになり。
 夕方までのシフトをちょっと早めに上がらせてもらって買い物をして家に招いてみたら。

「暫く端っこでじっとしていてください」

 開口一番(前置きに「すみませんが」と断りがあったとはいえ)これである。
 家主である雪代功至は、客人を迎えて早々、部屋の隅っこで膝を抱えることになった。


  *  *  *  *  *



+ + + + +




 話は少々遡る。
 駅員、雪代功至は軽い対人恐怖症で人間不信も併発していた。
 20を過ぎてそれではいかんと一念発起し、克服すべく駅員となった。未だ人の視線に慣れず制帽を目深に被る癖があるものの、駅を利用する客とて駅員個人の人格よりも自分の用事――どうすれば目的地に着くか、どのホームを利用すればいいか――が最優先なのであまりそこに頓着しない。
 思ったよりも荒療治は上手く作用した。と、思う。
 先輩駅員に比べれば案内に手間取る事も多く、言葉に詰まりやすいが業務態度そのものは真面目だ。このまま業務に慣れ、人に慣れられれば良いと功至は考えている。

 …しとしとと雨の降るなか、そのひとは現れた。

 駅の改札機近くをうろうろとしている、白い、ひと。
 目的地の最寄り駅がわからないのだろうか。路線図のパネルと発券機とを交互に見て、…否。
「(……挙動がおかしい)」
 ふらり、僅かだが身体が不安定に揺れている、ような。何かに似ている。それが、違和感とともに功至の意識にひっかかる。
「……どうし、ましたか」
 近づき言葉をかける。そのひとは返答を返さない。
 少しばかり制帽のつばを持ち上げ表情を確認しようとしたら、――ご、と音をたててその人の腕が外れた。
「!」
「…え」
 そのひとは慌てて腕を浮かせ、応急の処置としてくっつけようとして。
「…あ、あ、の」
 言葉が詰まる。恐ろしいから、不気味だから、ではない。鼓動はとくとくと早くなっていくが――これは、憧れか好奇心からくる高鳴りだ。
「…ご不調ですか」
 ようやく出てきた言葉がこれとは情けない。
 目の前にいるひとは、おそらく質の良いからくり人形。
 白い肌は人に似ているがどこか違う。銀の髪、赤と青のオッドアイ。…割烹着にシャツにネクタイという出で立ちは一周回って違和感が仕事を放棄した。
 …とにかく相手はからくりだ。ならば問いかけは無駄なく、的確にせねば。
「雨も酷いですし、宜しければ奥で休んだら、…えと、休まれたらいかがでしょうか」
 しかし人の目もあると途中から丁寧に言葉を選ぼうとして言い直した。
 それを気にせず、そのひとはぺこりと頭を下げ、
「ありがとう、ござ…ます」
 噛んだ。
 他の発音は流暢だが噛んだ。これはかなり調子が悪いらしい。
「こちらです」
 そのひとの手をとり、奥へと案内する。
 ……手袋越しに触れる手は雨のせいか冷ややかで、ひとの質感に似ているのが不思議だった。途中、ぐらつくそのひとを支え、ふたり、歩いた。


 脚も不調なのだろう。歩調を合わせて、ようやく待合室に着く。
 近い席にとりあえず座ってもらって、他のお客様に声かけをして簡易ベッドを組み立てた。
 再度、そのひとを支えてベッドへ導き、
「ひとまず、横に。…ええと。気分…いや、他に不調な箇所はありますか」
 戸惑いの視線を受けて、腕を指差す。さきほど落ちてしまった方の。
「…貴方、は…私のことが、分かる…のですか」
 功至はしゃがみ込み、そのひとと視線を合わせた。害する意思はない、と伝えるために。…その前に、その人がこちらの気持ちを汲んでくれたのか、警戒が無くなっていくように感じる。
「腕が外れたから…」
 ほんの少しこどものような好奇心が沸くのは許してほしい。
「…雰囲気、が。どこか違うな、と思いましたので」
 隠し切れない好奇心と申し訳なさに、口の端で笑みをつくり俯く。
「気を悪くされたなら…すみません」
 ちきききき。耳慣れぬようで馴染み深い音が、そのひとから聞こえる。
「…謝る必要はありません、貴方は、私を助けてくれました。…そして、貴方は、貴方の職務は、宜しいのですか?」
 さきほど支えて歩いた時も感じた違和感。こちらへの気遣い。不調な自分を置いてまでの、『他者に手を煩わせない』という意思。
 それは駄目だろう。
 気遣いができるのは良いことだ。だが功至は、この場の、この言葉は認められない。
「これも仕事」
 だから大丈夫です。
「そうですか…」
 優先すべきは『駅にやって来た様々なひとへ対応』すること。そう伝えると、理解してくれたのか雰囲気が少し和らいだ。
 そう、まずは、人間の優先より自身の優先へ意識をもっていってもらわねば。
「腕の方、今は大丈夫ですか。…また外れそうなら、良ければ見せてください。少し…その、慣れて、ますので」
 告げると、不安と緊張が伝わってくる。
 いきなり自分の身体、預けられるわけねーもんな。警戒も仕方ない。
「貴方は」
 ちきききき。思考が巡る音、だろうか。
 わかるのですか。問いかけられ、小さく頷く。
「お願い…出来ますか、私の、身体を」
 ええ。功至は再び頷き、
「完全に直せるわけじゃねー…です、けど。それでいいなら」
 浮き立つ心に口調が崩れているのに気づかない。
 このひとの助けになれる。人の助けをしたいと駅員になったが、まさかからくりのひとの助けになれるなんて思わなかった。知らず、手に力が籠もる。
「少し離れます。他の駅員に、言伝するので」
 言って、暫くして戻ってきた功至の手には工具箱。昔から使い込んでいる愛用の品ばかりで、手に馴染んでいる。蓋を開け、横たわるそのひとに見せると感嘆の声が漏れた。
「素晴らしい…」
 こういう器具で修理しますね、というアピールだったのだが予想以上に効果があった。
 旧い工具ばかりで不安がられるかと思ったが、違ったらしい。…良かった。こっそり安堵の息を吐く。
「…お願いします」
 頼まれれば余計にやる気が満ちるもの。お任せください、と微笑んでそっと触れる。人に触れるように、それ以上に優しく。
「では腕から」
 失礼、と声をかけて先ほど外れた腕を診る。
 だいぶ疲労しているのだろう。簡単な手当てしかできない身が悔しくもあるが、今やるべきことは違う。関節部を構成するパーツを一つずつ、丁重に外しては汚れを拭き、削り、また嵌めてゆく。
「……」
 わあ。からくりだ。ほんとにからくりだ。すげえ。どんな原理で動いてるのかできれば家でじっくりと…いやいやダメだ、それはダメだ。
 かちり、と手当てが終えたそれを嵌める。
「腕は、こんな感じでどうだ」
 集中と興奮の余韻で完全に敬語が消えた。どうだろう。異なるほしのからくりに、自分の技術は手助けになれただろうか。
「他は…服を脱がない程度で、不調なところは」
 尋ねると、からくりのひとはぼんやりとこちらを見ている。…どうしたのだろうか。不具合が起きただろうか。
 腕が動く。ききき、とも鳴らず、動作も滑らかに見えた。
「申し分ない…素晴らしい、修正です。ありがとうございます」
 …とりあえず及第点だろうか。
 続く言葉への答えは無い。技術に不満がある、というように見えないのが救いだ。からくりのひとは、軋まず動く腕を曲げたり捻らせたりと確認をしている。
 ということは、だ。人を優先、自分は後、なアレか。もしくは服を脱がねばならない箇所、脚や腰に不安があるのか。
「あー…」
 回すと、ごき、と首が鳴る。さて。 
「……できる範囲で、の前提はあるが。うちに来て、…その、同じように直してや…りましょうか?」
 緊張で舌が乾いてもつれて妙な敬語になった。
「もし、貴方が…」
 良ければ、と。遠慮と硬さがのぞく声音でそのひとは続ける。
「…ご迷惑でなければ…」

 私は、もう少し貴方に身体を任せたい。

「………」
 うんまあ言葉は間違ってない。間違ってないぞ。落ち着け雪代功至、からくりのひとは修理という意味で言ってくれたのだむしろ光栄に思うべきだコレは。
「まあ、これも何かの縁だろうし」
 手を差し出す。
 続きは家ですることになる。仕事が終わるまで待ってて欲しい。
 やくそく、の意味をこめて手を握った。硬質だけれどわずかに温もりのある手が不思議だ。

 さて、と功至は近くにいた駅員に事情を話した。説明がうまくいったのか誤解を受けたか、からくりのひとは遠方から訪ねてきた親戚かそうかならもうあがっていいぞーと肩をばしばし叩かれた。…とりあえず制服は着替えよう。
 着替えを済ませ、戻ってきた功至に、からくりのひともどうしました、と身を起こそうとする。後頭部をかきつつ、逆の手でそれを制しつつ。 
「…うち、来るか?」
 事情を説明して改めて誘うと、からくりのひとは頭を下げる。
「ロゼ・ロクスと申します。…この度は、不束か者ではございますが、何卒宜しくお願い致します」
 うんそれ嫁入り前の女性が言う言葉ですヨ?
 咳払いひとつして気を取り直し、功至も名乗る。
「雪代功至、だ」
 じゃあ行こうか。あ、でも。
「あー…まあ、あんま期待するなよ」
 人が多いから裏口から出よう、と支えながら立つ。
「ゆきしろ、こうじ様…かしこまりました。ユキシロ様」
 二、三歩確かめるように歩くと、ロクスは大丈夫そうですと言って離れる。
「とりあえず歩けそうか。じゃ、こっちだ」
 

 帰り道。
 ロクスの様子を気遣いつつ、また降り出しそうな暗い雲に降るなよと念を送ってみる。
「あ、ちょっといいか」
 夕飯なにも無いんだった。スーパーに寄り、カゴに出来合いの惣菜を入れてゆく。それを見て、ロクスの感情がなんとなく動いたような気がして振り向き。
「…ロクス? は、食べるのか?」
 そういえば食事とかどうするんだろう。カラアゲ食う? と持ち上げると、いいえ、と。
「いえ、私は特に食べなくても平気です…が、ユキシロ様」
 ん? 功至はロクスの言葉を待つ。
「失礼ですが、ユキシロ様は調理をされない方なのでしょうか」
 ロクスはカゴの中をもう一度確認する。かぼちゃサラダ、コロッケ、入れようか入れまいか手に持ったままの唐揚げ。調理の素材、つまり野菜などは一切入ってないし、功至自身もそちらの売り場に目もくれず惣菜コーナーに足を向けていた。
「あ? ああ」
 たまに弁当も入ったりするが。
「…休みの日でもないと料理しねーんだ。仕事して帰ってメシ作るとか無理」
 これは正直な話、本当だ。まあ料理ができたとして、…旨いものというよりギリギリ口にして大丈夫な栄養価のある物質しかできないのだが。
「では、メンテナンスして頂いたお礼に私が料理を作りましょう。栄養が偏ってしまいますよ」
 宜しいでしょうか? …いや願ったり叶ったりですがソレは貴方に負担がかかりませんか。
「…つか、料理できるの?」
 はい。気のせいだろうか、ロクスは胸を張り誇らしげに、
「…私はロゼシリーズ。料理洗濯掃除警備教育等々家事全般を遂行可能な機械人形です」
 警備は家事に入りますか。
「……じゃあお願いしようかな…」
 ツッコむ気力も失せた功至は、惣菜を陳列棚に戻してゆく。お前万能なんだなー。
「で、どれ買えばいいんだ」
 こうなればリードはロクスへ移る。言われるままに食材をカゴに入れていくが、野菜やら何やらがカゴの中を彩ると、懐かしさがこみ上げた。
 …母や、じいちゃんが生きていたころ、こんな風に一緒に買い物して、無言でお菓子を入れて軽く怒られ、一個だけと許しを得たり。
 ちなみにビニール袋に食材を詰める際もちょっと注意された。万能すぎる。

「たーだいまー」
 言いつつ戸を開けると、出迎えのからくり人形が「オカエリナサイマセ」と告げる。
「これは…」
 簡易の挨拶式自動人形。挨拶のためだけに現れ、またカタカタと音を立てて戻る。
 からくり屋敷に住む人間は功至一人。しかし、こういったからくりたちは無数にある。
「全て、貴方が作られたのですか?」
 いいや、と首を横に振る。
 年代物のからくりで満ちた屋敷。それは全て、
「此処には…ユキシロ様のご家族は」
 再度、首を横に振る。
 家族と呼べるひとはいない。このからくりたちは皆、祖父が造り遺したものたち。
「私はお邪魔では」
「…いないんだ」
 屋敷内で動くからくりたちが。暇を見つけては整備し、より長く動けるように祈りを込める、彼らこそが功至にとっての家族。
 ひとはいないんだ。
 言ってロクスに振り向くコウの笑顔は、作りすぎて張り付いたもの。
「だから遠慮するな。…入れ」
 居間へ案内し、適当に座れ、と。
「失礼しま…」
 す、と。最後まで、その言葉が締めくくられることはなかった。


 絶句。
 功至にとっては見慣れた風景でも、完璧を信条とする機械人形(家事万端)には見ることもないであろう地獄絵図が、そこに広がっていた。
 居間には脱ぎ捨てたシャツやネクタイが散らばっている。下着がないだけマシといえよう。靴下の片割れは捜索願が出て何日たっているのやら。
 台所は比較的きれいだが、朝の食事のあと食器を水に漬けただけ。何時間たってどれだけの菌が繁殖しているか、想像するだに恐ろしい。
「どうした?」
 メンテナンスするんだろ?
 言ってる傍から功至が羽織っていたジャケットを放る。それを、ロクス自身の能力なのだろう、ジャケットは落ちることなくふわりと空中で停止した。
 功至がすげえとジャケットを見つめる隙に部屋と台所に素早く視線を巡らせ、食材を冷蔵庫にしまうロクス。
「……ユキシロ様…」
 中身は見事に惣菜・酒・つまみと独身男の三種の神器。…賞味期限は大丈夫だろうかとチェックしつつ。
「な、なん、だ?」
 会って早々だがなんとなく分かり始めてきたロクスという機械人形の動作、その初動パターン。
「ユキシロ様…どうか、お願いします」

 …そして場面は冒頭へと戻る。


 じいちゃん。
 じいちゃんのからくりも凄いけど、このからくりも凄いです。
 みるみるうちにキレイになってゆく部屋に、すごいの一言だ。隅でひざを抱えて大人しくしてる間に、床が見えてくる。…見えてきたのいつぶりだろう。
 さて。
 部屋のあちこちを行き来して、洗濯物の区分やゴミの仕分けをするロクスの挙動を観察して具合の悪そうな箇所にアテをつけていく。

 …できることは少ないかもしれない。
 けど、直せるとこは頑張るから。

 異星のからくりってすげえなあ、と子供の眼差しで功至はロクスを見つめていた。

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