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ライリー・オリオトライ
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 徹夜続きで漸く得た休日。惰眠を貪る事なく洗濯や掃除を済ませ、ライリーは苦労して得たチケットを手に出かけていた。
 …目的地は天照劇場。
 休みの時間潰しにふらりと寄って当日公演のチケットを買う。…なら、よくする事だが今日ばかりは訳が違う。前売り、かつ舞台を見通せる人気の指定席ともなれば競争率はグンと上がる。
 ――記念公演、トメニアのゆり。
 幼少時にブリテンから天照へやって来たライリーにとって、天照語はなかなか馴染めない言語だった。
 母の趣味に付き合い、手を引かれて天照劇場に通ううち、苦手意識ばかりの天照語は耳に心地よい響きと、自分の環境に溢れる音たちへの馴染みをくれた。
 引越しの際、天照へ持ってきた本――ブリテンの書籍のものも舞台化され、公演を見に行くたび原典と比べ、言葉や表現を学んだものだ。
 観客席に座り、いつの間にか舞台に引き込まれ、非日常の空間を体感したのも良かったのだろう。
 ライリーは天照の言葉や音楽を、家族の誰よりも深く愛するようになった。

 トメニアのゆりは、母に連れられて見た最初の公演なだけに思い出深い。
 …けれど、徹夜明け且つ運動不足の身体にこの強行軍は堪えるものがあった。ひとときの幻想歌劇が幕を閉じ、心地良い興奮と夢の残滓を抱き乍ら現実へ戻りゆく観客たちの列から離れ、ライリーは出口とは逆の通路わきに設置された休憩用の椅子に座り込む。
 …パンフは、買った。無理に休みをもぎとった分、イスミやトールにも菓子か何か差し入れを買って帰るとしよう。
 ゆるゆると身体に戻ってくる現実感、醒めてゆく興奮に安堵の息を吐いて眼鏡を外す。…目頭やこめかみを軽くほぐし、さて、と戻そうとして手から眼鏡が落ちた。
 かしゃん、と床に滑るそれを拾うにも視力が悪いライリーには勘で探るしかなく。元から悪い目つきをさらに細め、手を床に這わせていると、「もう少し左ですわ」と声をかけられた。
 声を頼りに手をのばす。慣れ親しんだ硬質の感触に触れ、眼鏡をかけると声の主へ視線を向けた。
 柔らかな微笑をたたえた婦人が、ああ良かった、と笑みを深くする。…どことなく薄く感じる気配、しかし意思を持つひとの姿。
「…助かりました」
 自然、背筋が伸び声が上ずる。
「お加減は大丈夫? 誰か、ひとを呼んだほうがいいかしら」
「大丈夫です、目が悪いもので、…その、本当に有難うございました」
 覗き込まれると桃色の瞳と目が合った。記憶のままの花が、少しの心配を滲ませてこちらを見上げている。ぎしりと肩が強張る音がする。
「それなら良いのですけれど」
「はい」
 では失礼、と通り過ぎようとして。…いつも来てくださっていますわね、と声をかけられ、ライリーは振り向けず頷いた。
 ――はい。ここが、好きですから。
 消え入りそうな声で告げるのがやっとだった。優しい微笑を背に感じながら、ライリーは緊張から逃げるように劇場を出る。
 …幼い頃から、母から伝え聞いていた舞台の人。麗しき劇場の主。
 色褪せた天照劇場のパンフレットに描かれていた花はそのままの姿で其処に咲き続けている――…
「…っ」
 外気は耳まで火照った体温に心地よく。夢ではないぞ、と告げてもいる。

 ――良い休日を、過ごすことができた。
 天照劇場の出入り口が遠くに見えるまで離れてから、
「……また、公演を見に来ます」
 ライリーは改めて、劇場とその婦人へ礼をした。
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