封じ言葉に留め言葉 【BL】 [ 西京SS BL ]

◆雪邑泪◆
◆塩水ソル子さん宅の砂渡早雲さんをお借りしています。

同性愛表現ご注意ください。

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その人といつからそういう関係になったかは、よく覚えていない。
酒を呑んで、酔いつぶれて、奥さんの話をするもんだから、こんな想い抱くわけないと思っていた。
その人に、奥さんは居た。子供は、居る。
そんな過去形と現在形の使い分けで、この人の抱えるものがちらりと見えてしまったからいけない。課の所属を越えた呑み会のたび、なんとなく目で追ってなんとなく隣に座ってしまい、世話をやいてしまう。ずっと、ずうっと、過去から続く傷の話を聞くことになっても、そうしていた。

呑みに行こうぜ。

二人での呑みに誘われる形になったのは自然な流れ。
酔いつぶれた彼を家にあげて寝かせてしまうようになったのも。
寂しいよ、と言うから狭いベッドで無理して添い寝をしてしまった。そう、聞こえたのだと誤魔化して言い訳して、朝になったら怒られようと思っていたのに、仕方ねえよソファじゃ寝つけねえし！と、貴方は優しく流してくれる。

甘えてんじゃないよ、付け込んでんだよ、気付きなよ。

俺は若い時分から異性より同性が好きな性質だと自覚している。ここ最近そういった盛り場に行ってないのは、単に好みそのままのひとが無防備に俺に寄ってくるからだ。
そりゃあ貴方にとって過ごしやすい空間を作ってますもん、聞き手に回ってますもん。早雲さんと奥さんとの馴れ初め話はもう、一字一句間違えずに話せるレベルで記憶している。聞くのは正直辛いけれど、幸せそうに話す貴方の顔がたまらなく好きだ。

そんな人を酔いつぶれるたび家に泊める自分がたまらなく嫌いだ。
狡いにもほどがあるだろう、そんなん隠して世話してますってツラしてる自分は吐き気がする。

これじゃいけない。少しずつ距離を置こうかと、ベッドを買い換えた。広いベッド。大人二人が寝て余裕とか一人寝の侘しさが増すだけだろ馬鹿野郎。
まあベッドでなくとも自分はソファで寝ればいいっちゃそれだけなんだが。

さて、問題です。
「なーんでそっちで寝るんだよ泪ィ、ベッド大きいじゃん」
そう言ってぽふぽふシーツ叩いてかもーんとか言ってるまな板の上の鯉の調理法とは。(配点:あんた馬鹿ァ？)
「俺はいいですから一人で寝てくださいよ」
「泪の家なのに」
…俺いつからこの人から名前で呼ばれるようになったんでしたっけね。自然すぎて気づいたの今なんですけど、違和感あるようでないんですけど。
「寝てください」
「るーいー」
……………………。
「るいるいー」
…………………。
「るいちゃーん」
「あんたどう答えたら黙ってくれるんです⁉︎」
「一緒に寝たら。」
真顔やめろ腹立つ。いちいち喜ぶ自分にも腹立つ！
「…もう、わかりましたよ！」
やけくそになって大の男二人で健全なベッドインである笑えない。最後の抵抗と、背中を向けてやる。
「こっち向けよう」
ンな声出さないでくださいよ、反応しちまうでしょう。
「ったく泪は仕方ねえなあ」
そりゃアあんたの頭です。
「ほれ」
……。……呼吸が止まりそうになった。
後ろから回された早雲さんの腕が、こちらの腰をホールドしている。背中にあたるのは彼の体温だけじゃない、吐息で、
「…………………」
……囁くのは、奥さんの名前だ。
…おやすみ三秒とはとても健康的で良いと思います。
「……おやすみなさい、早雲さん」
背中の気配は眠りに沈みながら、おやすみぃ、と答えたようだった。


今日も俺の心臓はときめいたり傷ついたりと一方的に忙しい。
それでも。

好きですよ、早雲さん。

言えない言葉が喉に留まり溜まってゆくのは、不思議と厭だと思わなかった。