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急病のため休みます。食堂の事務所にそんな連絡が来たのは午前六時、朝食の仕込みで忙しない時間帯だった。
 今日やるメニューは決まっているスケジュールも埋まっている、自分ひとり居なくても調理場は回るだろう。
 茅乃は毛布を頭から被り部屋の隅に寄る。
 壁に背中を預け、角と床にぴたりと尻をつけ、体育座りで丸くなる。傍には食べ物を乗せたトレイ。
 新しい味を覚えたいという好奇心が味覚を殺した。
 ひとくちたべる。味がない。
 ふたくちめ。ただの物体が舌に乗る。
 みくちめ。口内に無味無臭の液体が広がり気持ち悪い。
 それを、舌でなぞる。肉だ。塩気があり、噛めば溢れる肉汁が舌を喜ばせるはずの、肉だ。
 かつていきものだった肉だ。
 いのちを奪われ、調理加工を施し、腹を満たす食べ物になった肉だ。
 味覚を失くした茅乃はいきものそのものを味わうしかない。だって腹は減る。
 腹を満たさねば。無心に貪る。が、半分ほど食べて箸を置いた。
 水を飲むと口内に溜まった脂が胃へと流れてゆく。
「………は、」
 まだこんなにある。
 たべないと。たべて、しまわないと。
 茅乃は皿を掲げで呑むように喰った。唇の端から滴るソースをぺろりと舐める。
「……は、…ふ」
 行儀が悪いと分かっていたが皿にこびりついたソースも舌を這わせてすくってゆく。冷えて固形化した脂が溝に溜まってしまったから、舌先を尖らせてなぞった。
「………く」
 飲み込み辛いそれを、こくりと飲む。コップは空だ。水を注ぐのも煩わしいから水差しに口をつけて飲み下した。
 むろん水の味もわからない。ただ液体が流れてゆくだけ、口内にこびりついた脂や汁を流すだけ。
「…………ぁあ」
 厭だな。
 味がないのは、辛いな。
 だけど、あれは必ずモノにしたい。あれは美味しかった。作りたい、食べさせたい。
 食べさせたい特定の誰かなんて居ない。作り、美味しいと思われるだけでいい。不特定多数の誰かへ向けて、聞こえないかもしれない「おいしい」という言葉のために、茅乃は料理を 作り続ける。
 それが自分の本質なのだろう。
 性質なのだろう。
 茅乃は立ち上がるとコンロの火を着けた。鍋の残りを喰いつくすため、温めるため、食べ易くするために。

 いのちを、余すことなくいただくために。


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