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◆◆ラージュエルバ◆◆
◆◆三峯泰央◆◆

◆お借りしています◆◆みみみ様宅:ロゼ・ロクス様◆
▼第陸回公式イベント『東京PROJECT』
▼終わる奇跡:続。




+ + + + +





  三峯は一人、歩いていた。
  此処は西京ではない。『東京』へ、三峯は帰ってきてしまった。たった半年しか過ごしていないのに、魑魅魍魎ゆきかう西京に慣れようと努力した甲斐あってかーーもしくは『東京』を忘れてしまいたかったのか、住んでいたはずなのに、何処に何があるか、何処へ行けばいいかが分からなくなってしまっていた。
  微かな記憶を頼りに、三峯は歩く。
  …ほんの少し。一目だけでも。あの人や皆の姿を見ることが、できたら。
  行ったところで意味は無いかもしれない。ただ、何か目的が無いと耐えられそうになかった。
「…….………」
  一見すると閑静な住宅街。その通りを一つ二つ、奥に入るたびに空気が変わってゆく。
  張り詰めた空気に、知らず体に力が入る。
「……懐かしいなあ」
  一般住宅と比べ、やや高く作られた塀に囲まれた日本家屋。ーー関東ではそこそこに力のある暴力団、大川組本邸。
  春には桜が、冬には牡丹が咲く手入れの行き届いた庭が、この内部に広がっているのだろう。半年以上離れているが、あまり変わらない様子に小さく息を吐く。
「……………」
  見張りの死角はこのあたりか。三峯は身体を隠し、静かに様子を伺った。談笑の声すら聞こえてこない、それよりも人の気配を感じないのが気になった。
「……まさか」
  もう少し奥を探ろうと身を起こし、
「…アニさん?」
  背後からかけられた声に、三峯は身体を強張らせた。


  …声が聞こえる。
「…お嬢様。お嬢様!」
  ……今日のバイトは昼からだったかしら。
「…ロクスね?」
「はい」
  支えられながら、身体を起こしてもらう。…どれだけ気を失っていたのだろうか、ひどく身体が重くて思考が回らない。
「心配させてしまったかしら。ありがとうね」
  花屋の奥。従業員しか入って来れない、住居スペースの廊下で倒れていたらしい。立ち上がろうとして脚に力が入らず、ロクスが無理をしてはいけませんと倒れかけた身体を支えてくれた。
「奥の…花園に行きたいの。貴方、良ければ運んでくれないかしら」
  ロクスは黙って頷く。花園、とこの少女が言う部屋は私室のようなもので、花に囲まれた部屋の中心にはベッドがあったはずだ。
「失礼します」
  抱きかかえられ、落ちぬように腕を回す。姫抱きも悪くないものねと呟いたが、ロクスはそうですか、と真面目に答えた。…相変わらずの生真面目さに笑みがこぼれる。
  花園のベッドに降ろされる前に、奥よ、と声をかける。
  季節もなにも関係なく西京に咲く花々たちの中心に、あの青薔薇があるはずだ、と。
「青薔薇ですか?」
「そう。青薔薇よ、私とヤスを繋ぐ青薔薇。…枯れてなければ良いのだけれど」
  魂を繋げるそれが枯れていたら、三峯か自分の命が失われたということだ。以前見た時は、痩せた蕾が力なく項垂れていたのだが。
「…ロクス」
  きゅ、と彼の割烹着を握る。
「はい」
  どうか失われていませんように。ラージュの瞳が不安に揺れているのを見て、ロクスは少女の背に手を添えた。
  ……青薔薇は。


  三峯が連れて来られたのは、屋敷の奥だった。
  たった半年離れていただけなのに、忘れようとしていただけに馴染みのある筈の光景が違うものに感じてしまう。…何より、空気が変わっていた。ことりと置かれた湯呑みの近くには灰皿が置いてあったが、長く使われた様子は無く、かわりに飴玉の包みが二つほど転がっている。
「…だ、……名津さんの具合はそげん悪かとね」
  茶を淹れてくれた男ーー吉沢に尋ねる。吉沢はへえ、と頷き、
「具合が悪いちゅうか…アニさんがおらんくなってから、ひとが変わったように覇気が無ぉなってしもて」
  抱えてきたものがこみ上げたのだろう。ぐ、と吉沢は声を詰まらせ、三峯に向き直り、
「アニさん。帰ってきてくれたんですよね?」
「いや、俺は」
  返答に惑っていると、部屋の周囲に人の気配が増えてきたのが分かる。ざわざわ、ぼそぼそ、と戸惑う声も。
「…どげん顔して大川組に戻れるんね」
  少しだけ確認したかっただけや、と俯く。言葉をなくす吉沢にかけてやれる言葉もない。
「名津さんも休んどぉっちゃろ? したら、起こしてしまう前に消えたほうが良か」
「やけどアニさん…!」
「…体を大事に、気ぃ遣てやって。名津さん、そのあたり無頓着やから」
  言って立ち上がろうとした時だ。奥からドスドスと足音が聞こえてくる。
「アニさん、」
「離しぃ吉沢。俺は名津さんに合わせる顔が無かと、」
「ヤス!」
  勢い良く障子が開け放たれた。
「………、……」
「帰ってきたんやったら早よぉ顔見せんか、この…」
  …言葉が出てこない。
  なんですかその姿。名津さん。大川組若頭は、俺が知っとぉ名津宇三郎は、もっと大きか人やった。髪に白いモンが増えて、ちと痩せてしもて、…食事もちゃんととりよらんのでしょう。お酒も控えてて、いつも言いよったんに。
「お前、そん髪…目ぇも、どないした。何があった」
  違う。違うんです。…違うんです、十何年も側にいさせてもろて、お世話になったんに、俺は。
「………良か。もう、良か」
  名津はがくりと肩を落として後ろを向いた。…小さな背を見て三峯の胸がずきりと痛む。
  お嬢。…すみません。
「待ってください、旦那さん」
「…名前も呼んでくれんか。そうやな、そうやろうな」
「違うんです」
  去ろうとする名津の腕を掴む。いやに細く感じたそれが悲しい。
「話を、聞いて頂けますか」
  青薔薇の少女に心の中で謝りながら、三峯は名津に事情を話し始めた。


  三峯と自分を繋ぐ青薔薇は、枯れてはいなかった。
  痩せていた蕾はふっくらと丸く、今にも咲きそうなほど元気になっている。
「…心配させて。あの馬鹿は」
  ぼやきながらも、ラージュの声音は嬉しそうでもある。そうよね、と頷くあたり彼女の思考は答えを得たのだろう。
「けれど咲かないなんて生意気だわ。私、ちゃあんと背中を押してやったのに」
  ロクスにはなんのことか分からない。ただ、この少女は一から十までを順序立てて話すタイプではない。気まぐれに結末だけを語ることもあれば、丁寧に説明しながら最後をぼかすのもよくあることだ。
「ねえロクス」
「はい、お嬢様」
「私、しばらく店を空けるのだけれど。店番やっていただけるわよね?」
  信用できるの貴方しかいないのだもの。にっこりと笑う少女は、決定ねとロクスの肩を叩く。

「花はね。愛でてくれる人の下でこそ美しく咲くのよ」
  あの馬鹿にそれを分からせてやらなくっちゃね?

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