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ライリー・オリオトライ
村主樹一

※女装、同性愛描写があります。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
※※一部、荻ノ目さん宅の佐田久甲斐さん本編の流れをお借りしております。



+ + + + +






ーー十一月中旬、折り返し地点の始まりも兼ねており、やや億劫な月曜日。
同期で悪友の村主樹一が、新聞を握りしめ二課に駆け込んでくるなり、首根っこを引っ掴んでライリーを屋上に連行した。
「もし、佐田久とその娘のことについて知りたいとぬかした奴が、おまえの能力を使って情報の提供を要求したらとことん誤魔化せ。わかっても吐くな。」
常のオカマ口調はどこへいったのか。凄まじい剣幕でそれだけを告げて、二人は慌ただしい月曜を迎えた。
それから暫くは忙殺の日々だ。樹一の不安はライリーが別件の事件にかかりきりになったこともあり、取り越し苦労となった。だが、樹一が外回りの回数を増やしている事や憔悴した様子であるのは二課のライリーの耳に入ってきた。
ある日なぞフラフラとしている樹一を捕まえてみれば、「子供の笑顔は嘘をつかねえよな」なんぞと脈絡のない事を言うので「当たり前だ馬鹿者め」と手持ちのファイルでどついてしまった。
痛がる様子も見せず、そうだな大丈夫だよなと仕事に戻る姿には流石に危機感を覚えたが。
佐田久甲斐という友人が姿を消して、樹一は暫くそんな調子だった。


十二月中旬。色々心配かけて悪かったな、と幾分か安定を取り戻した樹一は続けて告げた。
「デートしようぜライリー!」
ライリーが手にしたファイルの角で思いきり頭をどついたのは言うまでもない。



時は恋人たちの片割れで賑わうパチ公前。彼ら彼女らがそわそわしながら人を待つのは今日がクリスマスイブだから、である。
今やイミテーションと惰性でつけている左手薬指の指輪が重いわ胃がキリキリと痛むのは、ライリー自身、恋人が兄へ乗り換え結婚(兄はそうと知らないが)したトラウマが癒せていないためだろう。かつて彼女ともこうして待ち合わせをしたりして、あ、痛い。
「(おのれキアラいつかコロス…)」
はあ、とライリーは何度目かのため息をついた。待ち時間中に読んでいる文庫本もようやく半分、さて樹一はいつ来るだろうと考えていると。
「…ライリーくん?」
「…義姉さん」
忘れられない声に、慣れざるを得ない呼称で反応できたのは幸いだ。
相変わらず可愛らしく綺麗に着飾った彼女、…今は兄の妻で自分の義姉となった人は、くすりと苦笑して。
「待ち合わせしてるの? 恋人、できたんだ」
「あ、いや…なんと、いうか」
言葉に詰まる。舌が渇く。喉が痛い。
「ライリーくん」
クリスマスを彼女と過ごしたこともある。過去の焼き直しのような一幕だ。違うのは互いの左手の薬指の、銀の枷。
「ライリーくん、私ね、」
動けぬライリーの腕に縋りつくか細い指先。潤み、見上げてくる眼差しとほんのり染まる頬。
なにを言おうとしているのか察しはつく。あの兄は手に入れたものに淡白だ、だから続く言葉はおそらくは。
「ライリーくぅん♥︎お待たせぇ♥︎」
待ち人やっと来やがったな有難う!
「いやそんなには、」
これ幸いと声の方に振り向いたライリーと義姉は、揃って固まった。
「ごめんねぇ準備に手間取っちゃって…」
それ、は照れてくねくねと身を捩らせる。やめろ勘弁しろ身長190cm20代後半の成人男性。ただ上品な化粧は済んでるのでギリ美人の範疇に入れてやらんこともないハッテン場限定で。着ている服、なんだそれは。浅葱色の髪には普段しまっている狐耳が生え、赤いリボンが狐耳というパーツを可愛らしくアッピルしている。首元を飾るのは金の鎖とドロップカットで可愛らしい、おそらくはルビーだろう。防寒用だけでなく肩幅を誤魔化す為のショールはあざとさ全開のチェック柄。服装は勘弁していただきたいレベルで整った白のファーがアクセントのロング丈のワンピースで、裾から覗くのは黒ストと赤いハイヒール。脚のラインは及第点だがも少し肉が、いや男の脚にこれ以上の注文はつけられまいて。ついでに尻尾も一尾ふさふさと所在無げに揺れ、ってやめろ勘弁しろ一瞬たりとも脳裏にやきつけたくはない。
特高。特高はどこだ猥褻物陳列罪の現行犯だろうこれはアッ私は特高だしヤツも特高ではないか。詰んだな。つまり詰んだのだなこれは人生終わったな私は!シビアすぎる現実よもう諦めの極地に達したぞ、さあ好きに翻弄するがいい…!
「キアラ、気にすることはない」
乾いた笑いでさりげなく義姉から離れると、樹一は嬉しそうに腕を絡ませにきたのでライリーの肌が粟立った。うわあリアル鳥肌とはこのことか絶好につまらん!あと前言撤回だ辞書から翻弄という単語も滅びていいぞ!?
「…では失礼」
強張った笑顔なのは仕方が無い。義姉もぎくしゃくしながら、「じゃ、じゃあ、お幸せにね」と見送ってくれたがいらん世話すぎる。
自分より背が高い女装男に腕を組まれリードされて。…しばらく忘れられないクリスマスになるなと溜息をついた。


「なによぉ機嫌悪くしてぇ。助かったでしょう?」
「それとこれとは話が別だし後で殴る絶対殴る! 今は離れろ…!」
樹一が誘うデートというのも荒川城塞なのがシャレにならない。なぜ、こんなところを、女装オカマと二人で歩かねばならないのか。ライリーが問うと、
「このカッコで来い、ってのが条件だったんだもぉん」
きゅるん☆という擬音が似合いそうなポーズとるのやめろつい殴りそうになる。
「条件、とは」
「うちのオヤジがこーゆーのだったのは知ってるでしょ?」
問われ、ああ、と数年前に亡くなった樹一の養父を記憶の引き出しからひきずり出す。妖狐であったが尻尾は二尾で、血の繋がっていない樹一を娘のように可愛がっていた。小柄な体格の美人だったから、樹一の現在の女装をそのままスライドさせていたら女だと言っても騙せそうな。
「オヤジの遺した服で来い、ってさ。ここよ、この貸倉庫」
「ほう」
スラム街の雑居ビルが立ち並ぶ中、そのうちの一つのビルに入る。錆び付いたドアを開けると地下に続く階段が顔を覗かせた。
「…大丈夫なのか」
「大丈夫よ、信頼はできるわ」
二人分の足音が反響して、少し煩い。申し訳程度の灯りを頼りにおりて行くと、行き止まりには入り口と違って重厚な扉が待ち構えていた。
「ここね。…おじさん、来たわよー」
樹一は言いながらドアを開ける。
「来たか村主の忘れ形見」
小柄な梟の化生か。老人は眼鏡をくい、と直し、村主の姿を足元から頭頂まで眺め、
「養父とはぜんっぜん似とらんし、なんじゃいその背丈。えらく伸びて可愛げが無いのォ」
「ほっとけ」
「ま、じゃが、…懐かしいな。あやつ、まァだそれ持っとったんだな」
老人は樹一が首から下げているネックレスを見ると、嬉しそうに目を細めた。
「連れの人は巻き込まれて迷惑じゃったろ」
「ええ、まあ」
「ワシもそんなだったから諦めろ」
嗚呼、翻弄人生の先達よ。貴方もそんな事を仰いますか。
「ま、来なさい」
じゃらりと鍵束を鳴らして、老人は二人を奥へと案内した。

鍵のかかった扉を抜けると、細長い廊下に無数のドアが並んでいる。簡易なプレートだけが掛けられており、老人がここじゃ、と足を止めたのは、そのうちの一つのドアだ。
「息子に託すと言うておったでな」
……薄暗い小部屋。壁には棚が並び、沢山のボトルが持ち主を待っていた。
「…店用じゃない、オヤジのコレクションか」
樹一の養父はバーをやっていた。現在の樹一はそちらを改装して暮らしている。地下倉庫に在庫の酒瓶があったが、こちらに残されていたのは個人の趣味のものらしく、どれも高価なものばかりのようだ。
「引き取りにこなんだらワシが呑んでおったよ」
「そいつは危ないわねぇ」
「キアラ、キアラ、ご禁制のアブサンがあるぞ。凄いな」
「目敏いわねぇライリー」
そういやこいつも呑兵衛だったと苦笑する。
「あいつが死んでしもうた以上、こいつはお前さんのもんだ。持ち出すなり、預けたままにしておくなり好きにせい」
老人は遠い目で一つのボトルを手にする。
「…もう一度あいつと呑みたかったのぉ」
帆船が描かれたラベルの、封が開いたボトル。まだ半分は残っている。確かカティサークという銘のスコッチだ。癖の強い酒だが、来るたびに二人で呑んでいたのだろうか。
「アタシはご一緒できそうにないから、貴方が貰ってやってくれないかしら」
「そうさな」
思い出として貰っておくよと老人は頭を下げた。


銘酒の数々は暫く預かっててもらうことにした、と樹一は呟く。今、手元にあったら呑みそうだから、とも。
「……アブサン呑みたい?」
「試してはみたいがな」
アンタ、ハマりそうで怖いわぁと樹一は笑う。
その目はまだ遠い。
「…キアラ」
「なあに」
今夜は樹一から泊まっていけと誘われた。いつもの二人呑みと今日の礼に、とっておきのお酒をあけちゃおうと樹一ははしゃいでいる。ツマミにチーズと生ハム、オリーブのオイル漬けも買っていったから洋酒三昧になるだろう。
ここのところ忙しくてろくに休みもとれていなかったくせに。心労も、晴れぬものが重なるばかりで溜め込んでいる。樹一は他人の世話を焼いては助けになることを楽しむのに、自分自身の心の整理はうまくできない不器用な男だ。
かつてライリーは樹一に助けられ励まされ、少しは薬指の重みを減らしてもらったものだ。
その時に抱いた気持ちは嘘ではないが、彼はそれを曖昧に誤魔化し、答えを遠ざけている。
「今日の礼にひとつ追加させろ」
「いいわよ。何が欲しいの」
女装したお前に今さら心はざわつかない。
虚しさを重ねるつもりもない。
「少し屈め」
「ん?」
ヒール履いたら2mとか色気も無いな。玄関先、先に上がったところで身長差はたいして埋まらない。
屈んだ樹一の唇に自分のそれを重ねる。この温もりひとつを得るのは、とっくに諦めていた。
「私は、お前が好きだったのだよ」
驚きに見開かれる瞳。ぐい、と頭を引っ張りその額にもキスをして。
「…今は友としてお前が好きだ」
終わらせて、始めよう。友人を、続けよう。
「溜め込んでいて苦しくはないか、キアラ」
ぽん、とその背を撫でる。
「私にも少しは愚痴を寄越せ。お前にはずいぶんと助けられたのだから」
「……ライリーのくせに生意気だわ」
「嫌なら早く真っ当な恋人を作るのだな。その時はおまえの惚気を頂くが」
あんたのも寄越しなさいよと小さな声で抗議された。覚えておこう、と小さく返し。
「独り者どうし呑むとするか」
「そうねえ」
「化粧は落として着替えろよ」
「えっ、美人の酌はいらないの」
「いらん。手酌でいい」
友人と過ごす、最後のイブの夜がはじまってゆく。



【 そんなひとつの恋の終わり 】




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